山本精神分析オフィス

精神分析コラム

2019.01.10

逆抵抗に対する抵抗

抵抗

患者の多くは、臨床上の事実、すなわち、治療者に転移を起こし、イド抵抗、自我抵抗、あるいは超自我抵抗と呼ばれる反応を示し、治療から疾病利得を得ているという事実に直面するのに抵抗する。 これとまったく同じように、治療者も自らの転移や抵抗をめぐる問題を否認し、これらを直視しないものである。

ギルによると、医療者にいら立ちを感じたり、あるいは治療者に夢中になって理想化している患者はたいてい、こうした反応をごく自然なものと信じたがるという。 同様に治療者も患者にいら立ちを感じたり、夢中になって理想化しているときは、これを逆転移によるファンタジーや防衛や超自我の命令とは全く無縁の自然な反応なのだと見なしたいものである。 患者の治療者に対するあらゆる反応がたくさんの要素の組み合わせであるように、治療者の患者への反応もいろいろな要素の複合物なのである。

もし続けざまに何人もの患者に同じようなことを言われたら、それは治療者が、逆転移反応並びに逆抵抗に基づく行動を直視するのに抵抗しているのかもしれない。もし、一週間のうちに複数の患者から繰り返し、冷たいとか誘惑的だとか、あるいは攻撃的だとか、独断的だとか評されるならば、治療者の日常や精神内界で何が起こっているのかを検討すべきである。これは、極めて妥当な作業である。

心理療のパイオニアのひとり、フェレンツィによると、治療の行き詰まりの多くは、治療者が患者に抱いている敵意や性的ファンタジーに気づかないのに、患者の方がこれに気がついているために生じるという。フェレンツィは、治療者がかたくなりすぎて患者から距離のある存在にならないように警告している。 こうした治療者の態度は、患者が自然に転移を発展させるのを抑えてしまうという。フェレンツィは、治療者が堅苦しく振る舞うのは、逆転移反応に直面する抵抗であるという。 なぜなら、『治療の成り行きのままに振る舞ってしまうこと』は治療者にとって脅威だからである。 治療者は患者の情緒的欲求にあまりにも簡単に応じるべきでないし、そうかといって自分の情緒反応にあまりにもかたくなって用心深くなってもいけない。 フェレンツィの主張にしたがえば、ほどよい中庸の道を保つということになろう。

逆抵抗と治療者の日常生活

治療の時期によっては患者の日常生活での出来事が、治療で何を話題にしていくかに非常に影響するという見解があるが、これは、理論や治療モデルの好みに関係なく治療者であればだれもが同意するところである。 患者が病気になったり、妊娠したり、愛する人を失ったり、配偶者や恋人や子供に見捨てられたり、仕事を解雇されたりすれば、こうした出来事は確実に治療者への転移反応に影響し、さらには今までとは違った抵抗が発展することにもなるだろう。

ライフ・イベントが親しい人がなくなるという不幸なものでも、昇進のような喜ばしいものでも、患者はこれらに影響されてその人らしい反応を示す。

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