多くの臨床家が注目する現象の一つに、あるタイプの抵抗が挙げられる。
それは、過去があまりにも苦痛で見つめるに耐えないから、現在の話題に終始するという抵抗である。
あるいは、現在があまりにも不愉快なため現実のできごとを見ようとせず、子ども時代の思い出ばかり話すことである。
患者が過去を振り返って話すと、治療者に不安が生じることがある。
すると治療者は、自分を守るためにそれとなく現在の話題に話し合いの焦点を移すかもしれない。
同じく、患者が今現在の感情や思考、最近の出来事を話すと、治療者は心が乱れて不安になって感じしまうことがある。
すると治療者は不安から逃れるために過去のことを話すよう患者を誘い込むかもしれない。
『批判的な』な患者
もっともよく観察される逆抵抗の一つは、患者が治療者の今してくれたこと、あるいは今してくれないことについて批判したとき、それに対して治療者が過去のことについて話し合うよう患者を導くことである。
今現在、患者が治療者に批判を感じているならば、こうした批判はオープンに取り上げられ、話し合われるべきである。自分が治療者に敵意をもっていても治療者は自分を責めないのが分かると、患者はつらい過去の記憶を想起できるようになるだろう。
核心に触れようとしない治療者
患者の過去のできごとが、治療者のなかに不安をともなう思考、感情、記憶を引き起こすことは、しばしば生じる。
こうした場合、治療者は知らず知らずのうちに話し合いの方向を変えようとして、もっぱら患者の現在の出来事を取り上げる。患者が、見捨てられたり、拒絶されたり、誘惑されたり、虐待されたりした体験をもっていると、治療者もこれと似たような自分の体験を思い出す。
あるいは、同一化の機制を通して患者がこうむった耐え難い苦しみを味わう。
こうした耐え難い感情、思考、記憶から治療者が逃れたいと思ってしまうと、患者が話し合いたいと思っている重要な話題に触れられなくなってしまう。
フェニヘルの公式の一つに「患者の感情が存在するその瞬間を常に取り扱うこと」というのがある。大方の治療者はこの命題の正しさに賛成するであろう。
しかし、現場でこの命題を実践するのは難しいこともある。治療者は、自分が患者の感情、ファンタジー、抵抗あるいは現在の出来事ないしは過去のエピソードから逃げようとしているのに気がついたら、それを自己防衛としての逆抵抗が起こっているしるしとみなすべきである。
患者の過去または現在の体験によって、治療者も患者と同じようにあるいは患者以上に動揺してしまうという事実を、治療者は率直に受け止めなければならない。