山本精神分析オフィス

精神分析コラム

2018.11.29

明らかな抵抗と目立たない抵抗

治療者

精神科医であり精神分析家のグローバーは抵抗には二つのグループに分類している。すなわち明らかな抵抗と目立たない抵抗である。 明らかな抵抗は「思慮を欠いている」といって見逃されることはまずない。例えば、治療を中断する、セッションをすっぽかす、ぐずぐずしてセッションに遅れる、面接室からなかなか立ち去らない、長い間沈黙する、知ったかぶりをしてとうとうと述べたてる、つまらないおしゃべりをするなどである。

これに対し目立たない抵抗としては、ごく短い沈黙、言い間違い、遠回しな語り口、わざとらしい愛想のよさ、身体症状、自己卑下ばかりする。なかでもちょっとした沈黙は最もよく見られる抵抗である。 これは、目立たないだけに後になって振り返ってみないことには抵抗と分からない。目立たない抵抗の最大の特徴は、わずかに現れるだけではっきりととらえられない点にある。

患者の抵抗は、治療者の目には明らかであっても、患者にはわからない。これと同じことは治療者の逆抵抗についても言える。 つまり、治療者の気づいていない逆抵抗が患者の目には明らかなことがある。
たとえば、治療者が治療の終結を決定するとき、その背景には患者に会いたくないという気持ちが働いていることはよくあるが、たいていの治療者は、こうした自分の気持ちが終結の決定に関連しているのに気が付いていない。
また、治療上の必要よりも治療者の個人的欲求を満たすために治療が引き延ばされるという抵抗は、治療者にははっきりと自覚されないものである。 同じく、治療者が自分を守ったり、自分の都合のために治療を終結させてしまうという抵抗も、治療者にはわかりにくい。

治療者がセッションを延長したり、しゃべりすぎたり、長い間黙っていたり、やたらと細かいことにこだわったり、いやになれなれしくしたりすることがあるが、本人はこれを逆抵抗とは思わない。
患者が治療者の逆抵抗を指摘し、はっきり解釈して、治療者が何をしているのかを繰り返し分からせようとしても、治療者の方は抵抗し、こうした患者の「告発」は転移性の歪曲であると主張するのである。 微妙でひそかな目立たない抵抗は、簡単に合理化されてしまう。

例えば治療者がセッションに集中できないのは、患者が退屈だからであり、くどくどと話すのは、ものごとをはっきりさせたい患者の欲求に沿うためであるし、やたらと患者に対し従順だったり、おどおどしたりするのは、患者が無批判な親的人物を必要としているためという具合に、治療者の逆抵抗は比較的簡単に患者のせいにされてしまう。

治療者の多くは、患者の両親と同じようなやり方で、逆抵抗による振る舞いを合理化する。
親は子供に限界を分からせるためという口実で非常に処罰的になったり、やさしい愛情と世話を与えるためといっては過度に甘やかしたり、何でも許してしまう。br セッション中、治療者の方に身体症状が起こると、治療者は、子どもが「頭痛の種」だと言い張る親のように、自分の苦痛を患者のせいにしてしまう。

グローバーは、心理療法家が、自己のサディススティックなファンタジーと向かい合うのは難しいと考えた。
思いやり深く共感的であることを期待されている援助の専門家にとって、自己のサディズムを認めるのは困難なことである。 患者の精神力動がつかめず、治療が進展しているのかはっきりせず、患者に対してどんな感情をもっているのか分からなくなったならば、治療者はまず最初に、抑圧されたサディズムを考慮すべきであるとグローバーは主張している。 患者の抵抗は、しばしば、治療者の癒し手になりたい願望をくじくので、内なるサディズムを防衛している治療者の反動形成を弱めることになる。 治療状況ほど心理学的なものの見方がぴったりとあてはまるところはないし、患者の抵抗が治療者の知的好奇心をひどく挫折させるほど、治療者のサディズムをかき立てるものはないとグローバーは指摘している。

治療者のサディズムが背景となった行動化の例はたくさんある。 治療者ならば誰しも専門家として働いていると、ときには次のように振る舞うことがある。
たとえば、患者が解釈を直視して認めることに抵抗を感じているにもかかわらず、解釈を受け入れるよう威圧すること。 患者が実際のあるいは想像上の敵について語っているとき、患者の肩をもつこと。 この時本当に必要なのは、傷つきやすい感情や敵意を抱いてしまうことの恐れについて患者が理解するのを助けることである。 逆に敵の肩をもってしまうことがあるが、これは患者と戦うことに治療者が直面するのを避けているのである。
患者がよくならないことで治療者が苛立ちを感じると、「精神病質」や「ボーダーライン」といった軽蔑的な診断ラベルが用いられる。

サディズムが直接に表現されることはあまりないが、サディズムを防衛した逆抵抗は広く認められる。サディズムの防衛は,心配のしすぎ、不必要な保証、先回りして患者を危ない目にあわせないようにする、行動化に関する質問、解釈、直面化を延期する、患者の陰性転移に防衛的になる、患者の病理、葛藤、抵抗の存在を否認するといった形になって現れる。

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