山本精神分析オフィス

精神分析コラム

2018.09.27

治療モデルの選択並びに治療者の理論的背景と逆転移

治療者

療者が人間、とくに葛藤を抱えた人間をどのようにとらえ、何によってその葛藤を解決するかは、その治療者の生活史と非常に密接に関係している。

たとえば、カレン・ホーナイKaren Horneyは、船長であった父親との間に強い葛藤を抱いていた。彼女は、航海の間も父親と一緒にいたいとせがんだが、その願いはいつも聞き入れられずひとりとり残されてしまうのであった。彼女の神経症の定義、「敵意に満ちた世界の中での孤独」は、明かに自分の体験に基づいた見解である。 彼女が、フロイトとその理論を激しく批判して離反したのも、おそらくは父親に対する復讐の表現と言っていいだろう。

同様に、ハリー・スタック・サリバンHarry Stack Sullivanが、子どもが健康で成熟した大人になるためには「仲良し」の存在が不可欠であると説いたのも、おそらく、彼自身が幼児期の大半を農場で一人ぼっちで過ごした事実と関係するだろう。またアルフレッド・アドラーAlfred Adlerは、少年時代にクル病をはじめとする数々の病に苦しめられ、同年齢の友人と比べて背丈が極端に低く、兄と同様に彼らを憎んだ。 アドラーが、人間の根源的な苦しみを「器官劣等生」と「家庭内の順位」によって説明したのも、単なる偶然の一致ではない。

フロイトが「エディプス・コンプレックス」を発見し得たのも、彼が子供時代に両親の寝室で眠ろうとしたことに起因する。

治療者が、特定の理論的背景や治療モデルと自分との相性の良し悪しを深く吟味することは有意義なことである。 患者が特定の人物や主義を夢中になって理想化したり、あるいは非難するとき、治療者は、患者の幼児期の愛着と根深い憎悪がその特定の対象に向けられていると想定し、そうした幼児的情動を解消しょうとする。 これと同じように、治療者も、専門家集団の中に、尊敬してやまない指導者と憎むべき論敵を作り出す。

つまり、治療者の中にも「子供の部分」がずっと生き続けているのである。ここで重要なのは、自分の中に「子供の部分」が存在しているのを率直に認め、この「子ども」が、患者相手の職業上の人間関係にどのように影響しているか、常に探求することである。

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